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釧路高専 現代社会講座

釧路公立大学
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釧路公立大学『法学概論』

● 読書レポートの作例 〔2014年度〕

濱口桂一郎若者と労働』 を読んで

ペンネーム ORX-005

 私はこの秋、某予備校のアルバイトをした。その予備校は休憩も取ることができ、バイト先としてもいいところだったと本書を読んで改めて思う。

 この本は、アルバイト等で初めて仕事をすることを経験し、これから正社員を目指そうという人も多い私たちが興味を持って読むことができる。

 ライトノベルのようであった前回の課題図書、『キヨミズ准教授の法学入門』よりは私たちにとって重い内容であり、私や私の友人たちはなかなかページが進まず、とっつきにくいような印象であった。だが、あとがきに “編集の方から文章表現も含めてさまざまな示唆をいただき、そのおかげで今までの著書に比べてもかなり読みやすい” とあるように、本書を一番読むべき若者にも読みやすく、図での解説もある分かりやすい内容となっており、興味を持つことのできる新しい切り口で批評しているなと感じた。

 本書に少しだけ出てきた『僕たちはガンダムのジムである』という本に、公立大模型同好会創設者の私はついつい興味を持ってしまったりもした。

 ジョブ型・メンバーシップ型といった濱口氏の考え方も、日本の特殊な雇用システムを理解する手助けとなる。「役が人をつくる」といった言葉にも表れている、日本の独特なシステムは、日本にいるとなかなか変わっていると思う機会はない。本書では色々と気づかされる。

 私自身も高校の社会の授業で習い、暗記させられた、終身雇用・年功序列・企業別組合といった「三種の神器」の説明がいつまでもそのままされていることへの疑問が書いてあったところなどは、特に興味深かった。

 本書では入社のしくみや、学校での教育のしくみについても触れている。学校では細かいところまでは教えてはくれない。義務教育である中学校卒業までには、なんと私は一度も教えてもらうことはなかった。私の通っていた中学校は公立で、色々な生徒たちがいた。貧乏な子供も多かったので、彼らは社会に出ることになった。中学校を卒業してすぐに働きに出た友人たちは、過酷な現場で働く彼らこそ知っておくべきことを何も知らず社会に出た。「書類がいっぱいある。でもあまり目をとおさない。見ても、分からないから」といっていた姿を思い出した。そのような人が少しでも減るといいなと思う。

 ほとんどの学生は、そしてその両親も、先生も、世間一般も、どこの会社に就職し、そこでどのような職業生活を送るようになるかは、もっぱら会社が決めることだと思い込んでいるという一文は、私自身も、私の親も本当にそうだったので、はっとさせられた。

 くせは強いが、だからこそ読進めることのできる本だ。濱口氏は、深く追求した難しいことをいっているのではなく、法学を学んだ者からすると当たり前、だが今の若者の多くが意外に思ったり、知らなかったりする事柄(働く人は厳密には「社員」ではなかったり、日本以外のアジアの国々が欧米諸国のような入社のしくみであったりすること)を分かりやすく教えてくれるといった印象だ。

 一部内容は法学概論の授業で最近やっているところともつながってくる。また、付録にある欧米諸国の若者雇用政策を、日本と比べながら見ると、特殊な日本の様子が見えてくる。

 私は先日、地域交流・活性化サークルの中から代表して、市長と語ろう「わかものふれあいトーク」というイベントに参加してきた。上は28歳、下は10代の私たちのこのイベントでは、将来の不安を話したりもした。

 なかでも、私が印象に残ったのは、くしろ女子会のメンバーの方のお話だ。彼女は25歳求職中。「就職が出来ない、どうしよう。釧路から出られない。やっぱりパラサイトシングル・年長フリーターは世間の目も厳しい」と言っていた。

 また、イベント終了後に参加者全員食事をしたのだが、一人、途中で抜けてかなり遅くに5歳老けたかのような顔をして戻った方がいた。「仕事が終わらなくて…まぁ私が遅いからいけないの。サービス残業の日々」という話に、私も将来が不安になった。

 芦野にある魚介類の美味しいお店に行ったときにも気になったことがあった。東京から釧路に戻ってきたOBの方が、「1日8時間、1週40時間の法定労働時間が…… うぅー…… サービス残業って……」社会人一年目の彼は入社当初、色々と無知で損をしたが、今は落ち着いたよ、という体験を聞かせてくれた。

 本書では、ほぼ間違いなく全員が自分の就職先を見つけ出すことできるようになっているという記述があり、くしろ女子会の方のお話とは違うぞ?という疑問を持ったが、欧米諸国、また日本以外のアジアの国々の欠員補充方式のところを読むと、確かに先ほどの一文にも納得できる。何の能力も持たず、とりあえず大学には行った、私のような者は欧米諸国のような方式だと就職できる可能性は今の日本より低くなりそうだ。いや、まず、大学の卒業が日本より難しいため、卒業できる可能性も低くなる。テストも日本のような暗記ばかりではなく思考力が鍛えられる。努力や自主学習をし、苦労して卒業して、資格や能力をつけてそれを見てもらい就職する欧米諸国方式の方が賢いやり方であるとは思う。

 なぜ、就職しやすいはずの日本で、若者たちは就職できない、と言うのか。一つ、ここで私の頭に浮かんだのが、お弁当工場で働いている私の友人だ。彼は「給料は高い。手当もつく、時間はカードでしっかりしているし、ブラック企業ではない。でも……ここにそのまま就職は嫌だなぁ」と言う。そういう意見もあるので、そういう法的な面が守られていればよいというわけではなく、仕事を選びたい、という若者たちの存在が、就職ができない、という本書の意見とは異なった認識を生むのかもしれない、と思った。

 また、年長フリーターに対しては、非難のような感情論でのみ若者の労働が語られてはいけない、ともある。地域のイベントにたくさん参加し、勉強熱心で一生懸命職探しをしていながらも周囲から非難され、自分ばかりを責めていたくしろ女子会の方にもお話したい内容だ。

 6章で扱うブラック企業の話は、若くて残業をさせられてばかりの毎日だという2人が浮かんだ。上司は応援してくれるしやりがいはあるんだよ、というOBさんの発言に、危険信号……。本書では、「やりがいだけ片思い正社員」についても書かれていた。食事をしていた法学概論履修者たちが、「『若者と労働』読みます?」と言い出す事態となった。

 がまんして、言い出せない日本人。自殺も多い。本書は若い人は一度読んでみると参考になり、少し見方が変わってくると思う。Amazonのレビューでは、 これは企業の人事部門の人々や、感情論的あるいは情緒的視点から評論する一部の学者などにじっくり読んでほしいものだと思いました。 といった意見もあり、濱口氏のような考え方はもっと広まるべきだと感じた。


ここに掲載した文章は,学生から提出のあったレポートの中から後進の参考になるであろうと思われるものを講義担当者が選び,掲載の許可を本人から得たうえで,最小限の文章表現について添削を施して公開しているものです。筆者の見解を,講義担当者ならびに学校が承認ないし支持しているものではありません。


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