KUSHIRO National College of Technology, class in modern society

釧路高専 現代社会講座

専攻科2年 「技術者倫理」

● レポート作例

失敗を活かすには――六本木ヒルズ回転ドア事件に学ぶ

村上 恵太

1. はじめに

 今回の失敗から学んだ経験として選んだ題材は,「六本木回転ドア事件」である。
これは2004年に起こった,六本木ヒルズ内の回転ドアに男児が挟まれて死亡するという悲惨な事故であった。本レポートでは,この事故と過去に自分が経験した事例を通して,今後技術者としてどのようにあるべきであるかを検討する。

2.事故概要

 東京都港区六本木の大型複合施設「六本木ヒルズ」内の森タワー二階正面入口で,母親と観光に訪れていた6歳男児が三和タジマ製の大型自動回転ドアに挟まれて死亡した。事件発生の原因は,回転ドアの重量が重く,停止動作開始後に停止するまでに時間がかかる,及び男児がセンサの死角に入り緊急停止装置が働かなかった,制御安全への過信,安全管理の欠如が挙げられる。

3. 失敗事例の活用

 六本木ヒルズ森タワーでは,事故後ただちに大型回転ドアの使用を中止した。1ヶ月後には,同ビルの大型自動回転ドアをすべて撤去する方針を固め,逐次実施した。
 国土交通省と経済産業省は,3ヵ月後の2006年6月に自動回転ドアの事故防止に関するガイドラインを策定した。最も重視したのは回転速度で,大人がゆっくり歩くスピードである65cm/秒以下に設定した。これにより,歩行者が余裕をもってドアを通過できるだけでなく,緊急時にドアが停止するまでの距離を短くすることができる。その他,子供連れや高齢者,障害者に配慮して回転扉以外のドアを併設すること,センサの死角をなくすこと,衝撃緩和のための緩衝材を入れるなどの対策を盛り込んで「多重な安全対策」による事故再発防止を目指した。2008年3月4日,三和ホールディングス(三和タジマの親会社)は,利用者が扉に挟まれても衝撃が緩和される改良機種を発表した。扉に人が挟まれたときに折れ曲がる「折れ曲がりドア」が付いている

4. 自身の経験との類似

 私自身の経験した失敗は,車の窓に指を挟んでしまったことである.この失敗は珍しいケースなのか調査を実施した.独立行政法人国民生活センター調べによると,2005年〜2010年までの5年間にパワーウインドウによる事故報告は23件あったことがわかり,私が初の犠牲者ではなかった.23件の事故のうち16件が10歳未満の子どもの事故で約7割を占めていることもわかった.2010年7月に独立行政法人国民生活センターより発表されたパワーウインドウの安全性によると,パワーウインドウが閉まるときに異物が挟まった場合、開くような挟み込み防止機能が全席に装備されているのは約4割の車で、閉まりきる直前のわずかな部分では、挟み込み防止機能が働かない車も存在している。パワーウインドウが閉まるときの力は,平均34.1kgfであり,大人でも容易に静止させるのは難しい力であると言われている.
 パワーウインドウの挟み込み事故は,子どもに多く発生する事故であることから,好奇心によって生まれることが推察できる.回転ドア事件も子どもの好奇心により生まれたものであり,パワーウインドウによる挟み込み事故と回転ドア事件は,よく類似した事件であると思われる.事故報告がなされているにも関わらず,パワーウインドウの挟み込み防止について検討していないため,いずれ大きな事故を招くのではないかと心配である.
 挟み込み事故という失敗を活かして,パワーウインドウに対策を施さない理由として,手間とお金がかかる,事故件数はまだまだ少数であるため対策をするまでもない,などが考えられる。安全装置が取り付けられていないことは,技術者として安全への配慮が欠けていると感じた.したがって,安全装置の付いていない車を使用する場合,自分自身で危険を回避する能力が大事になってくると考えられる.子どもに対して,車の窓は危険であることを親がしっかり伝える,子どもにはパワーウインドウを使わせないなど,安全に徹底することで事故防止が可能であると考えられる.

5. 技術者としての在り方

 技術者は公衆の安全を最優先に考えた製品を提供しなければならない。事故の可能性を限りなくゼロに近づける工夫が必要になる.例として,回転ドアの事故が発生した後,折れ曲がりドア付き回転ドアの設置や回転ドアの軽量化などの対策が行われた.失敗を活かすという点では成功したかもしれないが,事故発生前から小さな事故やヒヤリとした経験が報告されており,報告を受けた時点で今後大きな事故が起きると予想し,対策を立てるべきであったと考える.回転ドア事件は,技術者が気付いて対策することにより防ぐことができた事件であるため,技術者のミスであると思われる.小さな失敗の発生に対して,「今回はたまたま」ではなく「大事故に繋がるかもしれない」というように,技術者は常に安全を意識しなければならないと考えられる.私はこれから技術者になり製品と関わりを持つことになる.なによりもまず公衆の安全を意識してものづくりをしていくつもりである.

※ ここに掲載した文章は,学生から提出のあったレポートの中から後進の参考になるであろうと思われるものを講義担当者が選び,文章表現について添削を施したうえで提示しているものです。筆者の見解を,講義担当者ならびに学校が承認しているものではありません。


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